原因と予防について
歯周病は、口の中に常在する細菌が歯の表面に長く堆積し、細菌の作る菌体外毒素によって歯肉に炎症が起こり、放置すると歯の周りの骨が溶けてしまう病気です。細菌が要因であることは明確なのですが、そのほかのさまざまな要素が複合的に働くことで発病すると考えられています。
歯周病は細菌が起こす病気です。宿主の局所免疫が低下すると、普段は病原性を持たない細菌が異常増殖し、発病に至ります。
歯周病の原因菌として、多種類の細菌が挙げられていますが、口腔内常在細菌が複合的に関係しているため、特定の細菌というより、プラーク(歯垢・細菌苔)全体と考えたほうがわかりやすいでしょう。ブラッシングなどによってプラークを成熟させないようにすることが、予防につながります。
人の体内の常在細菌の種類は、歯が萌出する時期に接触していた人からの感染をベースとして決まります。若いうちから歯周病に悩まされている方は、若年性歯周炎の原因菌に感染している可能性があり、親から子へと感染させる危険性があるため、お子さんが生まれる前にきちんと治療しておく必要があります。
歯周病はむし歯と異なり、原因物質が付着したからといって直ちに発症するわけではありません。歯に細菌の巣(プラーク)が付着したあと、そのままの状態で一定時間(48〜72時間)経過すると歯肉炎が発生します。ですので、48時間ごとにプラークを除去すれば、歯肉炎は発生しないことがわかっています。
時間の経過とともにプラークが成熟し、細菌の棲み分けができて歯周病の起炎物質がたまり、歯肉炎が発症すると考えられています。しかし、体の免疫力の低下といった別要因が作用しなければ、骨の吸収などの悪化までには至らず、ずっと平衡状態が続きます。
そして、体の免疫力の低下などの別要因が重なってしまった場合に、局所的に爆発的な歯周病の進行が起こります。こういった発病時間の積み重ねによって、歯周病が進行していくと考えられています。
成熟し、細菌の棲み分けができたプラークは、バイオフィルムと呼ばれます。バイオフィルムが形成されると、抗生物質や唾液中の抗菌物質が浸透しなくなるため、歯ブラシや専用の器具など、物理的・機械的な方法で擦り落とすしか除去する方法がなくなります(一般の洗口剤は効きません)。
こういったことから、歯に付着した細菌の集落(プラーク)を、歯の表面から洗い落とす作業(プラークコントロール)は、最低24時間に1回行うことが目安です。常に歯の表面をきれいな状態に保ち、バイオフィルムの形成を防ぐことが、歯周病予防のために重要な処置なのです。
全身の健康状態・免疫力の状態が、歯周病の進行に大きくかかわります。全身の健康状態が良い人の中には、さほど歯みがきに気を使わなくても歯周病にかからない人がいますが、そういう人ほど、いったん問題が起きると急激に悪化することがあるので注意が必要です。
喫煙は歯周病を悪化させやすいと強調する歯科医師もいます。喫煙は、歯周病のリスク要因であるのみならず、伏流煙などで周囲に悪影響も与えるので、控えたほうがよいでしょう。
また、糖尿病などの全身疾患や睡眠不足、過労なども歯周病のリスク要因です。いつもイライラしていると、交感神経の作用で唾液の分泌が減少するため、歯周病菌が増殖しやすくなります。できるだけリラックスして生活を送るほうが、歯周病予防にもよいのです。
さらには、姿勢や噛み合わせの変化などがあると、個々の歯にかかる力が変わり、歯周病が進行するケースがあります。正しい姿勢でいることや、体をほぐしたり、ウォーキングしたりすることは、歯周病予防にもつながります。
歯並び不良があるとプラークが堆積しやすく、プラークコントロールも難しくなるので、歯並び不良もリスク要因と考えられており、場合によっては矯正治療が推奨されます。
砂糖などの糖分を含んだ食品を摂取すると、ミュータンス菌が作るネバネバ(不溶性グルカン)によってプラークが取りににくくなり、細菌が歯に永く付着します。また、ブラッシングにかける時間も通常の倍以上が必要となります。
さらに、ジャンクフードなどの軟らかくて高カロリーなもの、ジュース・お菓子・缶コーヒーなど、糖類が多い上にあまり噛まなくても食べられてしまうものは、歯を汚れやすくするばかりでなく、噛む刺激が歯周組織に正しく伝わらないことから、歯周組織の抵抗力を弱めてしまいます。
砂糖の摂取を減らすことはもちろんのこと、よく噛んで食べることも歯周病の予防につながります。緑黄色野菜や根菜など、繊維質が多く、局所免疫を高めるビタミン類が豊富なものを、ゆっくりよく噛んで食べることが、歯周病を予防するための食生活と言えるでしょう。